リーダーシップ・トレーニング・フェローシップ 5年間の実践報告

2020年4月13日 栄原 智文

 

1) 指導医養成フェローシップの歩み

CFMDは2007年から遠隔教育を中心としたフェローシッププログラムLTF-distantを提供してきた。参加者はフェローとして、1年間にわたりリーダーシップ・家庭医療教育・組織運営に関する学びをすすめ、リーダーシップの涵養をはかる。内容は以下の通りである。

 

家庭医療の理論を実践に活かす方法を学び教育・診療に生かす(家庭医療の理論的基盤)

1. フェローの家庭医療指導医としての能力開発(教育設計)

2. フェローが所属する施設の医療の質向上(医療の質改善)プロジェクトの実施

3. 診療所運営において、開業支援ではなく勤務医の管理者(所長)として管理運営に必要な知識を獲得し、実践する(組織マネジメント)

 

LTF-distantはこれまでに4期、計31名の修了生を輩出した。著者はフェロー4期生(2012年−2013年)として学んだ。2015年からは4期の修了生5名を中心にフェローシップの運営を引き継ぎ、2020年までの5年間で計25名の修了生を輩出した。

 

2) LTF-distantの教育方略

フェローの採用条件は日本プライマリケア連合学会家庭医療専門医ないしそれと同等の能力と認められるもの、現場で指導医・管理者として診療所・病院運営に携わる者とした。北海道から沖縄県に至る全国各地の医療機関から参加申し込みがあり、SNS(Skype・Facebook・Dropbox)を活用した遠隔教育、年4回各2日間でスクーリングの形式をとった。

年間を通じて一同に会する機会が少ないため、反転授業としてフェローシップ開始前に研修領域のエッセンスをまとめた動画や参考資料の提供を行い、事前学習を促している。スケジュールは4月にキックオフとして各テーマの講義・ディスカッションを行い、6月と12月に教育設計に基づいたワークショップをフェローが運営し、3月に研修の成果として、自施設の経営戦略の発表(非公開)、各領域のショーケースポートフォリオの発表(公開)を行い修了となる。研修期間はSNSを活用して、ワークショップの準備・打ち合わせを行い、各フェローの学習の進捗状況を共有している。

 

3)フェローシップ修了者に対するアンケート調査結果

 2019年12月に2015〜2019年度の修了生19名を対象にアンケート調査を行い、15名(男性12名・女性3名)から回答を得た。集計結果について一部紹介する。

修了生の現在の職場は診療所8名、病院(200−400床)4名、病院(400床以上)2名、大学1名であった。これまでに病院長、診療所長・副所長、総合診療部の部長・医長・チーフなど11名が管理職を経験した。

LTF-distantを知ったきっかけは、ホームページ・メーリングリスト・SNSなどの情報源が 10名、LTF-distant修了生からの紹介が5名であった。

修了時の研修領域の自己評価(5点満点)は平均点でID 3.8点、QI 3.2点、経営戦略・財務分析2.6点、リーダーシップ・チームビルディング3.4点であった。

LTF-distantがキャリアに与えた影響(著者要約)としては、ID理論を系統的に学んだことが、経営や教育など様々な場面で生きている、財務諸表や経営を学ぶことで別の視点から地域を知ることができ視野が広がった、臨床への取り組み方が変わった、管理職として働くことに前向きになれ、不安が少なくなった、家庭医として働くことの自信、仲間作りになった。QIの取り組みがチームビルディングにも影響を与え、スタッフから信頼を得られたなどのコメントがあった。

 今後取り上げて欲しいテーマとしては組織マネジメント、ビジネス理論、臨床研究、地域医療デザイン、地域包括ケアや地域ケア構想、コーチング、フィードバック方法、経営分析や戦略の応用、コミュニケーション理論などが挙げられた。

 

4) フェローシップの成果と課題

2018年度から開始された新専門医制度で総合診療専門医が新たな専門領域として認定されたが、プライマリ・ケアを担う医師数は不足している。また家庭医療、総合診療の専門研修を修了した医師のキャリアパスはまだ整備途上であり、若手・中堅に位置するプライマリ・ケア医は日常業務に多忙であり、長期的な目標ややりがいを見失ってしまう懸念がある。

LTF-distantではプライマリ・ケア領域の指導医養成のためのリソース提供と生涯学習のコミュニティ形成を支援してきた。フェローが新たな目標を持って学び、自施設以外の同期と経験を共有することで内省が生まれ、管理者・指導医としての成長が促進されると確信している。

修了者アンケート調査からはLTF-distantで学んだID・QI・組織マネジメントのノウハウが様々な場面で役にたっている評価を得られたと受け止めている。しかし修了後の年数はまだ浅く、フェローシップの長期的な成果については判明していない。臨床医が普段馴染みづらく、修了者の自己評価が低かった経営に関連する内容もブラッシュアップが必要と考える。

 COVID-19感染流行の影響で予定していた2020年度のフェローシップはスクーリングを実施できず休止なった。(以下追記2021年12月10日)情勢を見ながらカリキュラムの修正を行い2021年度からは完全オンライン開催で再始動している。学習者のニーズを鑑みながら、LTF-distantの持続可能性を模索していきたい。